19.この愛の果てにあるもの(045)

 

【8月】Asuka[社会人三年目]

 遠距離恋愛がはじまって一年が過ぎた。
 私は今でも真鍋課長の部下として営業部に所属している。なるべく現場にも足を運ぶよう心掛けていて、一年前よりひとりでこなせる仕事もちょっとだけ増えた。
 私も真鍋課長のようになりたいと思ったから、真鍋課長が持っている資格の勉強にも励んでいる。資格取得となると実務経験も必要になってくるから現実問題かなり難しいけど、仕事をする上での知識としては必要なのでただいま努力中。
 そして、その真鍋課長。彼は私を口説くことはなくなった。そして今も彼は独身を貫いている。

 玲と私との関係は変わりないので、順調といえるのかな。

 玲は新しい赴任先でも仕事を評価され順調に昇進もした。
 左遷ではあったけど、ありがたいことに東北支社の支社長は玲の仕事を高く評価してくれていた。今では部下もつき、玲はよくその部下の子と行動を共にするらしく、電話でその子の愚痴を私に零すほど。
『あいつはひとりじゃ、なにもできない』
 それは私にとってもイタイ言葉だけど玲の部下である彼のことがうらやましい。
 そしてずっと気がかりだった玲の元奥さん。玲の話だと来月、元奥さんは再婚するらしい。相手は傷ついた元奥さんを支えてくれた人だという。子供にとっては複雑な家庭環境になるけど、どうか、幸せをたくさん感じながら育ってくれますようにと願わずにいられない。


 週末の金曜日。
 今日は一ヶ月半ぶりに玲と会える日。玲は東京の本社に用事があって朝からこっちに戻って来ていた。遠距離になって東京で会うのはこれが初めてだった。
 私は仕事を早めに切り上げ夕飯の支度をして玲の帰りを待っていた。こんなふうに平日の夜に玲を待つなんて四年ぶりに近い。
 二十歳で知り合い、あらからもう五年。私は二十五歳になった。
 五年間で私や私を取り巻く環境は劇的に変化した。それでも唯一変わらなかったのは玲への想い。これからも一生をかけて愛し抜く。それが唯一、私にできること。

「おかえり、玲」
「ただいま。ほら、お土産」
「ありがとう」
 玲の手には今日もビールとシュークリームの入ったコンビニ袋。あの頃と変わらない玲がそこにいて玲の眼差しに私も微笑み返した。
 私の指にはいつかのクリスマスにプレゼントをしてもらったムーンストーンの指輪が輝いている。私の誕生石のこの石の意味は“永遠の愛”
 そうして私たちはいつものように一緒の時間を過ごした。語り合い、笑い合い、抱き合い、そんな時間を大切に過ごす。貴重な時間を一瞬も無駄にしないようにしたいと思った。
 泣いて、苦しんで、お互いを拒絶すらしたあの頃はこんな日が再び来るとは思っていなかった。今は玲の隣にいられるだけで十分。もうこれ以上、自分への欲を考えることなんてできない。



 ねえ、玲?

 私もこれほどまでに人を好きになったのは、あなたが初めてだったよ

 生きていくその果てに永遠があるなんて矛盾しているけれど
 ずっと変わらないと断言できるこの気持ちは“永遠”としか表現できないよ

 私の想いは本当に正しかったのかと何度も考えたけど
 想い続けることで答えが分かったの

 正しかった、という答えは存在しない
 でも、そばにいられなくても、気持ちが通じ合わなくても玲が幸せでいてくれればそれでいいと思えるようになっていた

 ──私の一番の望みはあなたの幸せ

 そう思っていたあの頃にすでに答えは出ていたんだ


 この愛の果てには、果てしなく愛を貫こうとする私の姿があった。
 あなたの幸せを願って。



2013.01.25(END)



【あとがき】

この物語はフィクションです。

テーマは「インモラル」。
あくまでも“エンターテイメント小説”です。
人の悲痛な感情を表現したくて、この題材を選びました。

読んで下さった皆様、ご理解、ありがとうございました。
そして読んで下さってありがとうございました。

最後に。

常識やモラルに関するご意見はあるかとは思います。
ですが、それに関する個人的感情はどうかご自身の胸におさめて下さい。(感想は大歓迎です)

私も皆様と同じように常識やモラルは持っておりますので、フィクションとしてお受け取り頂けると幸いです。


さとう未知瑠

            


 

 
 
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